ある種の神経活性物質がその細胞膜受容体に結合すると、細胞膜イノシトールリン脂質がホスホリパーゼCによって速やかに加水分解を受けて、ジグリセリド(DG)が産生され、産生されたジグリセリドはCキナーゼを活性化する。最近、宇井やGompertsは、細胞膜受容体からホスホリパーゼC反応に至る細胞膜トランスダクション過程にGTP結合性蛋白質(Gi蛋白質)が関与していることを、肥満細胞や多核白血球を用いた細胞レベルの実験で示した。そこで、私共は、本特定研究において、HL-60細胞をジブチリルサイクリックAMPで多核白血球様細胞に分化させた細胞をモデル細胞として、細胞膜レベルで外界シグナルによってホスホリパーゼC反応が引き起こされる実験系をまず確立することを試みた。そして、この無細胞実験系を用いて、走化性因子であるfMLPの受容体によるホスホリパーゼC反応の制御機構にGTP結合性蛋白質が関与していることを実証することに成功した。すなわち、単離した細胞膜にfMLPを作用させると、用量依存的にホスホリパーゼC反応が促進された。fMLPによるこの反応の促進効果は微量のGTP(1-10μM)と【Ca^(2+)】(0.1-2μM)に依存しており、これらの非存在下では認められなかった。細胞膜をNADの存在下に百日咳毒素(IAP)で処理すると、fMLP依存性のホスホリパーゼC反応は抑制された。しかし、この抑制は牛脳やラット脳から部分精製したGi蛋白質を加えることによって解除された。一方、細胞膜を放射性NADを用いて IAPで処理すると、分子量4万前後の蛋白質がADPリボシル化された。これらの実験結果から、多核白血球様に分化したHL-60細胞では、 fMLP受容体と共役したイノシトールリン脂質のホスホリパーゼCによる加水分解反応にGi蛋白質が関与していることが明確になった。
|