研究概要 |
異常血色素には酸素親和力異常があってこれをもつ患者には多血症、チアノーゼがくる一群のものがある。日本はもとより世界各国よりこれらの患者の血液を集めて異常血色素を精製し、酸素平衡曲線と種々の分光学的性質(吸収スペクトル、円偏光二色性スペクトル、β37Trpの蛍光スペクトル、鉄一近位Hisの共鳴ラマンスペクトル等)を同一の條件下で測定した。そしてこれからこれらの異常血色素の酸素親和力異常の原因を分子レベルで追求した。ここではそのうちの共鳴ラマンスペクトルの結果について述べる。酸素親和力の高い異常血色素はMonocl-Wuman-Changeux(MWC)の二状態R-T平衡の考え方ではR型へ、又酸素親和力の低い異常血色素はT型へ、平衡がずれていると考えられる。MWCのパラメーター及びK、(酸素化の第一段階の平衡定数)を酸素平衡曲線より求めた。種々の血色素のデオキシ型の鉄一近位-Hisの伸縮振動のラマニスペクトルは215〜225【cm^(-1)】位のところにみられる。酸素親和力の高い血色素は220〜222【cm^(-1)】のラマン線を与えるが、これは分離したα鎖,β鎖のデオキシ型、あるいはデオキシミオグロビンのそれと同じであった。そして酸素親和力の低い血色素のそれは214〜216【cm^(-1)】であった。ところが中間の酸素親和力を示す異常血色素のデオキシ型は前2者の中間で、しかもそれぞれ單一のピークを示した。これは單純MWCモデルによる高い親和力のものと低い親和力のものとの平衡混合物によるものという説明と矛盾する。異常血色素のT型には種々あり、グロビン部分の各々程度の異ったひづみとして、鉄-His結合に少しづつ異った程度の影響を及ぼすとすると実験結果を説明できる。鉄-近位His伸縮振動の波数とlog【K_1】はきれいな相関を示した。このようにして酸素親和力異常を伴う異常血色素の酸素親和力異常の原因が、一先づ分子レベルの段階で説明されたことになる。
|