アデニレートキナーゼは、細胞内におけるアデニンヌクレオチド・プールの組成を規制する代謝調節上重要な酵素である。本酵素の欠乏症は極めて希であり、今までに世界で4家系が報告されているが、いずれも溶血性貧血を示す遺伝性赤血球酵素異常症として発見されている。本研究は、1982年東大三輪史朗教授によって発見された、本邦の1家系の患者から変異遺伝子を分離して、DNA塩基配列上の変化を解明しようとするものである。 我々は既に、鶏の筋型アデニレートキナーゼのcDNAを分離し、DNA塩基配列を決定している。赤血球アデニレートキナーゼは筋型であることが知られているので、我々が分離したcDNAが赤血球の本酵素の遺伝子に対応していると考えられる。 本年度は、異常遺伝子解析のための第一段階として、上記cDNAをプローブとして、正常人の本酵素遺伝子を分離して、その周辺の 11キロ塩基対にわたる領域の全塩基配列を決定し、エキソンとイントロンの構成を明らかにした。 それによると、本遺伝子は7個のエキソンから成り、それぞれのエキソン-イントロン接合部は、本酵素蛋白の立体構造上の、αヘリツクスやβシートなどの2次構造の末端部に一致していることがわかった。また、本酵素は筋組織内では、2個のmRNAが同一遺伝子から合成されていて、それらは3′末端側の長さが異っていた。 以上の成績をもとにして、今後本症患者の異常遺伝子の分離と塩基配列の決定を行う予定である。
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