心筋細胞の歩調取り機構、興奮発生、プラトー相発生、興奮伝導等の諸機構及びこれらの異常機構については未解決の問題が多い。本研究は哺乳類の心筋より単一細胞を分離しパッチクランプ法により電圧固定実験を行い、機能単位である心筋の単一チャネル電流、全細胞電流の分析から膜電流の基本的性質を明らかにすることを目的としている。本年度は第1に細胞内Hイオンのカルシウム電流に対する影響を細胞内潅流法により研究した。アミロライド、Na欠液等によりNa-H交換機転を止めておくと、カルシウム電流は細胞内からの方が細胞外からよりも鋭敏にHに反応することがわかった。Hイオンの細胞内と細胞外とよりの効果を定量的に示した。第2に房室結節細胞を用いて一過性に起こる外向き電流の単一チャネル電流を分析し、これがKのみならずNaイオンをも通過させるチャンネルであることを証明した。さらに、アセチルコリンの心房筋陰性変力作用がカルシウムイオンの減少によるという従来の考えを改め、アセチルコリンは直接K電流を活性化させるため外向き流を増加させることを明らかにした。さらに担体電流の単離を行うため細胞内潅流を行い、Na-Kポンプ電流を単独で記録することに成功し、Na-Ca交換や流系についても単離成功した。 このようにパッチクランプ法は心筋活動電位の背景にあるイオン電流と、交換電流を定量的に明らかにしうるすぐれた方法であることを知り、来る2年間を通して歩調取り機構の解明を中心としてこの研究を進めることとした。以上の研究はイギリス生理学会、日本生理学会、王子セミナーシンポジウムで部分的には報告し、61年度ゴードン会議国際生理学会および2の衛星シンポジウムで報告する予定にしている。
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