研究概要 |
1.本研究の最大の眼目は, イエズス会士関係著訳書のわが国の現存状況を調査し, その見在書目を作成することにあった. そこで国立大学図書館31, 私立大学図書館9, 都道府県立図書館28, 市町村図書館18, 国立機関2, 私立図書館・機関12の総数100の図書館・機関でこの調査を行った. そのうち1点でも該当書を確認しえたのは37図書館で, 総点数は866点であった. 調査対象図書館は必ずしも十全ではなく, 今後の課題として残るが, これらをカード化し, パソコンに入力して見在書目を作成した. 2.存在が確認された該当書を暦算・科学技術類, 宗教・格言類, 地理・地誌類の三つに大別すると, 点数では宗教・格言類の方が多いが, 現存総点数では暦算・科学技術類の方が多いことが判明した. 3.またこれらを刊本, 写本の二つに分け, 前者は更に原刻(17世紀に主として出版されたもの)と後刻(復刻や叢書収録本)に分類すると, 宗教・格言類は圧倒的に後刻が多く, 暦算・科学技術類はこれら三者が比較的平均しているが, 写本が他の二類と比べて多いのが特徴である. 4.これらの原因は, 鎖国制度下のキリスト教禁令とそれに伴う禁書制度にあろう. 吉宗の禁書緩和令により, 『天学初函』『崇禎暦書』『西洋新法暦書』など暦算・科学技術関係書が舶載されて, これが原刻の数が比較的多いことを物語り, またそれにより数多くの写本が作られたと思われる. 他方, 宗教・格言類は, 禁令により輸入が禁ぜられ, アヘン戦争以後に復刻されたものが, 開国・明治以後に輸入されたのであろう. 5.所在が判明した該当書を点数の多い順から並べると, 『職方外紀』37点, 『交友論』28点, 『幾何原本』26点, 『園容転義』21点, 『呻輿外紀』18点で, このように, 10点以上確認された書23点中17点もが『天学初函』所収の書物である.
|