研究概要 |
非線状音韻論の理論的・記述的研究を行ない, 理論の発展と新しい事実の発掘を目指して始められた今回の研究計画は, かなりの程度の有機的研究組織を形成し, 研究発表や意見・情報の交換を行ない, 衆知を集めることができたおかげで, この3年間に相当の成果をあげることができた. まず第一に, 研究代表者は過去100年以上もの間妥当とされてきたゲルマン古詩の伝統的韻律論は非線状音韻論の枠組みによる解釈を施すと, 妥当性に欠く不備なものであることを明らかにし, 古英詩の特異な韻律構造の解明のためには新しい枠組みが不可欠であることを実証した. さらに, 韻律理論における立体構造や音節構造の仕組み, 分節音のきこえ度の階級に関する最近の研究成果をとり組むことによって, 新しい妥当な韻律モデルの提示を行った. 一方, 分担者の中では, 水光は非線状音韻論と統語論の関係に焦点を当てて分析を進め, 従来の理論の修正と改良に努めた. この成果は論文のみならず著者『文法と発音』(1985年大修館刊)にも反映されている. 山田は現代英語のみならず近代英語をも対象にくみ入れ, 語彙音韻論の理論的発展に寄与しうる研究を4編の論文に発表した. 田端は一貫して日本語の分析音を対象にして, 音節の内部構造の解明を主たる目的とし, 非線状音韻論の枠組みの妥当性の実証と理論の改良につながる研究を行ない, 4編の論文を公表した. 三上はモンゴル語を主な対象としてとりあげ, 特に母音に焦点を当てて非線状音韻論の枠組みに基づく新しい分析を試み, いくつかの新しい知見を得た. もっとも残された課題も少なくないため, これまでの研究成果をふまえて, 新たな研究組織のもとで一層の努力をしてみたい.
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