研究概要 |
前年度に引き続き、各分担分野および関連分野の事実調査と理論的考察を進め、全体会議で討議を重ねた結果、つぎの諸点が明らかになった。1.言語習得の過程を重視した動的な文法観の支持例と解釈しうる事例が統語論周辺寄り領域から更に数項追加された。(1)付帯状況のwith構文,(2)XP,if(not)XPという形の擬似等位接続表現,(3)統語形式と意味的属性の平行関係を欠く派生的な等位接続構造,(4)make the claimの類の合成動詞表現,(5)存在文と関係節構文の混成と目される擬似関係節構文,(6)主要部・修飾部の関係が逆転した名詞句表現,(7)代不定詞表現,などがその主要例である。このほか形態論・語彙論,史的統語論などの分野でも新事例が発見された。(8)接頭辞が補部の選択に影響を与える派生語構造,(9)分詞構文と重複する意味領域から始まった動詞的動名詞構造の発達過程,などがその主要例である。2.文法の動的な展開を支配する一般則として、前年度までのものに加えて、「有標具現の法則」その他が検討され、それぞれの説明力が確認された。3.基体BがモデルMにならって派生形Dへと拡張されるとき、(B,M)はまずDのあるサブケースD1を生み出し、これが他のサブケースD2,D3…に一般化されてDが得られる。(B,M)からD1への拡張は「実質等価」の条件に従う。この条件は言語習得の結果としての成人の文法に適用されるのではなく、習得途中のD1導入の段階で適用される。4.周辺寄りの領域で確認された文法展開の諸法則は、中心部の解明にも有効である。チョムスキーの「原理と可変部」の体系のうち、言語の実態とある程度の関連のある部分は、動的な視点から見たとき、より深い分折が得られる。統語範畴,厳密下位範畴化,格,意味役割り,束縛などがその例である。5.現行の英語教材の編成は上のような視点から見て改良の余地がある。関係代名詞とその省略の扱い方の問題はその一例に過ぎない。
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