研究概要 |
主としてシュネデールの幻想文学史新版にもとづき、幻想文学作品の集収,複写,分析,検討を行い、そのほとんどすべてを綱羅することができた。とりわけ1960年以降の現今の幻想作品(シャトーレノー,フルチオー,ヴリニー他)を100点に近く検討することができたのは収穫であった。また従来の幻想文学研究で閑却されていた18世紀以前の資料、とくに中世説話の中の前幻想作品群に照明をあてることができたのもひとつの成果であった。 その結果、幻想の具象的イメージとして中世以来の聖杯,槍,城,森,湖,等が、いかにして十九世紀の人間研究文学の文脈の中で、仮面,人形といった人間中心的、ないし擬人的イメージに転化してゆくかを若干なりともあとづけることができた。音楽,美術,演劇,風俗との関わりあいにおいてはそれぞれの個別研究がつづけられたが、とくに社会風俗史との関係での化粧,ダンディスム等との文学の関連の研究(山田)に見るものがあった。神秘主義においてはゲノンの研究(田中)が全体の研究に重要な示唆を与えた。電算機処理においてはフランス語テクストの処理のためのパソコン用プログラムが開発され(松尾)、各個人が簡便にテクストの語彙瀕度などを計量することができるようになった。書誌学上は、フランス幻想文献目録作成と所在調査に進展を見た。分担者中、61年度中に柴田はシュペルヴィエル研究に、金沢はゴーチエ学会出席のためにそれぞれ渡仏し、海外の研究者との接触,意見交換,資料集収につとめ、代表者もモンプリエ、およびパリにおいて資料の集収を行った。またネルヴァルの『オーレリア』の電算機による語集研究の集約としての新訳も発表した。他に、サンド,リラダン,ノディエ等についての個別研究にも進展を見た。
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