研究概要 |
日本列島に沿って、その東側に存在する海溝域は水深8000mを越える深淵となっている。ここでは海洋表層で形成された粒子の沈積や、乱泥流による海溝斜面堆積物の破壊とその海溝底での再堆積が活発におこなわれている。本年度は、海溝域における海洋水の化学的特性を明らかにするとともに、粒子の沈降にともなう溶存化学成分の除去過程ならびに海溝底附近における粒子の再堆積過程を明らかにすることを目的とした。このため、前年度に採取した試料および資料の分析と解析を実施するとともに、1986年8月淡青丸(東大・海洋研)により、房総沖日本海溝の観測とセジメントトラップ実験とを行ない、以下の結果を得た。 1)海溝域における海洋水の化学的特性の把握-房総沖日本海溝の観測点(34°10.4'N,141°58.9'E,水深9,200m)においてCTD観測を実施し、海洋水の化学的特性を精査した。特に、溶存化学成分の鉛直分布に関する結果は、海溝域の深層水の流動混合は予想以上に活発であり、西部北太平洋の深海底に相当する6000m深以深においても海洋水の鉛直水平混合の大きいことがわかった。 2)化学物質の除去過程の解析-海洋水の現場濾過システムを海溝域の深層水に沈め、浮遊懸濁粒子を捕集した。この粒子について、有機化合物(炭化水素,非環状テルペンなど)、重金属元素,安定同位体,放射性同位体を分析した。その結果、深層水に浮遊する懸濁粒子は海溝域の物質循環系において必ずしも重要な役割を演じていないことを示唆した。 3)海溝域における再堆積過程の解析-有機成分の分析から海溝域堆積物は陸起源物質の割合が大きいことを示した。したがって、海溝底堆積物の形成過程を検討するため房総沖日本海溝の観測点に時系列型セジメントトラップを設置し、沈降粒子の捕集を実施した。トラップの揚収は62年6月の予定である(東大海洋研白鳳丸による)。
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