視細胞における光情報変換に関する分子機構

1986 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 60304098
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 吉沢 透 京大, 理学部, 教授 (10028128)
• 研究分担者: 三木 直正 金沢大学, がん研究所, 教授 (40094445) ; 村上 元彦 慶応義塾大学, 医学部, 教授 (50051058) ; 秋野 豊明 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80045377) ; 原 黎子 大阪大学, 理学部, 講師 (20075138) ; 伊藤 允好 神戸女子薬科大学, 教授 (20068331)
• キーワード: 視細胞 / ロドプシン / レチナール / cGMP / GTP結合蛋白質 / 単クローン抗体 / レチノクローム / イオンチャンネル蛋白質

研究概要

視細胞の光情報変換機構は、次の3段階に分けられる。【1】光受容子(ロドプシン:Rh)内において、光エネルギーがRhの構造変化に変換される過程。【2】Rhの退色中間体が一種の酵素作用を発現し、GTP結合蛋白質(T)を活性化して光情報を増幅する過程。【3】増幅された光情報信号(cGMP)がイオンチャンネルの開閉を制御し、受容器電位を発生する過程。本研究班ではこのテーマに沿って、有機的な連携をもって研究を進めている。
まず過程【1】において、レチナール類縁体(2環性レチナール)を用いた吉澤と伊藤の共同研究によって、Rhのバソ中間体からルミ中間体への転換過程におけす発色団とアポ蛋白の相互作用変化が実験的に解析され、垣谷により理論的計算に基づく検討が加えられた。片岡は、X線回折法及び単クローン抗体を用いて、膜中におけるレチノイド蛋白質の存在状態の解析を進めた。原は、頭足類Rhへのレチナール供給系に、レチノクロームとレチナール結合蛋白質が関与することを示した。
過程【2】は、Rh退色中間体がTを活性化する過程である。秋野は、Tが複数の成分から成り、この複数成分の間に活性の相違があることを明らかにした。遺伝子レベルでの解析は三木が担当し、Tの遺伝子発現が光により調節されるという知見を得た。活性化されたTは、次にcGMP分解酵素を活性化する。村上は、この酵素の活性化に伴い、そのKm値が10倍も上昇することを見出し、明順応機構との関係を検討している視細胞においては、光がイノシトールリン酸の代謝回転を活性化するが、尼川は、この過程(ホスホリパーゼCの活性化)に、やはりGTP結合蛋白質が介存することを示唆する知見を得た。
【3】の過程では、イオンチャンネルの実体を解明する必要がある。篠沢及び吉澤は光親和性標職法により、それぞれ分子量250K及び60KのcGMP結合蛋白質を同定し、これらをイオンチャンネル蛋白質の候補と考えて解析を進めている。

研究成果

• [文献書誌] Beppu,Yoshitaka: Chemical Physics.
• [文献書誌] Fukada,Yoshitaka: Photobiochemistry and Photobiophysics. 11. 269-279 (1986)
• [文献書誌] Hayashi,Fumio: Biochemical and Biophysical Research Communications.
• [文献書誌] Hara,Reiko: Proceedings of the 2nd International Meeting on Retinoid Proteins(Irkutsk).
• [文献書誌] Hara,Tomiyuki: Proceedings of the 2nd International Meeting on Retinoid Proteins(Irkutsk).
• [文献書誌] Ito,Masayoshi: J.Chem.Soc.,Perkin Trans I.
• [文献書誌] Kataoka,Mikio: Photobiochemistry and Photobiophysics.
• [文献書誌] Kataoka,Mikio: Photon Factory Activity Report.
• [文献書誌] Kawamura,Satoru: Journal of General Physiology. 87. 737-759 (1986)
• [文献書誌] Kawamura,Satoru: Biochimica et Biophysica Acta. 870. 256-266 (1986)
• [文献書誌] Kuo,Che-Hui: Molecular Brain Research. 1. 257-260 (1986)
• [文献書誌] 三木直正: 代謝臨時増刊号「レセプターと疾患」. 23. 277-281 (1986)
• [文献書誌] 三木直正: 東京眼科医会報. 118. 1-5 (1987)
• [文献書誌] Murakami,Motohiko: Journal of Physiology. 386. (1987)
• [文献書誌] Nakagawa,Yuzo: Neuroscience Research. 3. 300-310 (1986)
• [文献書誌] Negishi,Kouroku: Vision Research.
• [文献書誌] 大黒浩: あたらしい眼科.
• [文献書誌] Ono,Toshirou: Photochemistry and Photobiology. 43. 285-289 (1986)
• [文献書誌] Ozaki,Koichi: Vision Research. 26. 691-705 (1986)
• [文献書誌] Ozaki,Koichi: Vision Research.
• [文献書誌] Seki,Takaharu: Vision Research. 26. 255-258 (1986)
• [文献書誌] Shichida,Yoshinori: Biochemistry.
• [文献書誌] Shinozawa,Takao: Journal of Biological Chemistry. 261. 216-223 (1986)
• [文献書誌] 篠沢隆雄: 実験医学 3月号.
• [文献書誌] Takahashi,Kyoh-ichi: Neuroscience Research,Suppl.(Proceedings of the 9th Taniguchi Symposium on Visual Science).
• [文献書誌] Takeda,Kazuo: Photobiochemistry and Photobiophysics.
• [文献書誌] Tokunaga,Fumio: Photon Factory Activity Report.
• [文献書誌] Tokunaga,Fumio: Photon Factory Activity Report.
• [文献書誌] Tsujimoto,Kazuo: Chemistry Letters. 2005-2008 (1986)
• [文献書誌] Yoshizawa,T【o!-】ru: Proceedings of the 2nd International Meeting on Retinoid Proteins (Irkutsk).
• [文献書誌] Yoshizawa,T【o!-】ru: University of Illinois Press.
• [文献書誌] 吉澤透: ELAN. 6. 12-17 (1986)
• [文献書誌] 原富之: "実験生物学講座9・神経生物学講座" 丸善株式会社, 21 (1986)
• [文献書誌] Miki,Naomasa;Ed.Y.Tukada: "Cloning and characterization of retina specific cDNA in:Molecular Genetics In Developmental Neurobiology" Japan Scientific Societies Press, 9 (1986)
• [文献書誌] 三木直正: "続 生化学実験講座:情報伝達と細胞応答(下) 網膜光応答と環状ヌクレオチド" 東京化学同人(日本生化学会), 10 (1986)
• [文献書誌] 篠沢隆雄: "情報生物シリーズ【II】 神経情報の伝達に関与する分子 脊椎動物の視細胞外節におけるサイリックGMPの生理機能" 培風館, (1987)
• [文献書誌] 吉澤透: "現代生物学大系 補遺 I.D. 動物の感覚" 中山書店, 15 (1986)
• [文献書誌] 吉澤透: "生理学大系第9巻 感覚生理学,1章【V】.視物質" 医学書院,
• [文献書誌] 吉澤透: "臓器の生化学 第7章 眼" 理工学社,
• [文献書誌] 吉澤透: "眼科ゼミナール・第40集 網膜シリーズ" 参天製薬株式会社, 8 (1986)