研究概要 |
宇宙X線の観測の精密化にともなって、X線光学系の開発が不可欠になってきた。従来のX線光学系はX線の全反射を利用したもので、観測するエネルギー領域、有効面積、分光法を考えるとその限界は明らかになる。そこで本研究では多層膜反射鏡によるブラッグ反射を用いた方法で、将来の宇宙X線の観測装置の開発を行う。 本年度は多層膜反射鏡として、W/C,W/Siの組合せで、2α=30,70,220Åで積層豆数300,40,10のものを設計、製作した。基板としてシリコンウェハー及び研磨ガラスを用いた。これらの多層膜のX線反射率、波長分解能、表面界面粗さの測定をC-【K_α】(44Å),Cu-【L_α】(13.3Å)、Al-【K_α】(8.34Å)、Cu-【K_α】(1.54Å)の特性X線を用いて行った。特に反射率は基板の面粗さに大きく依存し、従来の光学研磨では十分な性能は得られず、大阪大学工学部で開発されたフロートホリッシング法で精度のよい基板(2〜3Arms)を作ることができた。蒸着はアメリカECD社に依頼した。しかし納期が非常にかかることから機動性をもった研究開発はできない。そこで多層膜を自作するために、超高真空蒸着装置を完成させ、現在それによる多層膜の製作を始めている。層厚を数原子レベルに制御する必要があるため、この装置はターボ分子ポンプとイオンポンプの排気系によって【10^(-10)】torrの超高真空を達成している。 多層膜の性能試験は名古屋大学理学部にある装置を用いて行ってきたが、当研究室にもX線発生装置とパルスモータによるθ-2θ駆動機構付真空槽が完成し、性能試験が可能になった。そのため多層膜を自作し、その性能がすぐに測定できるようになったため、この研究の急速な進展が期待できる。多層膜反射鏡の応用としては斜入射型及び直入射型X線反射望遠鏡、分光素子あるいは偏光素子の開発を目ざしている。
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