本研究では主として(1)励起子半径より薄い超薄膜半導体の二次元電子励起状態を明らかにすること。(2)酸化物単結晶表面及び物理吸着させた有機色素との界面における電子励起状態とその移動のダイナミックスを明らかにすることを目的としている。本年度は(1)の目的を達成するために層状半導体の良質な超薄膜製造をめざしてICB法、即ちイオン化クラスター法による製造装置を組立てている。そのための排気装置を設計発注し4月納入の予定である。(2)の目的達成のために、まず酸化物単結晶の成長を行う。単結晶はフローティングゾーン法か気相成長法により作成するため、赤外線集中加熱単結晶製造装置を NEC=チデン機械から購入し、それを用いて【TiO_2】単結晶を成長させた。次に【SnO_2】単結晶をフローティングゾーン法で作ることを試みたが【SnO_2】が昇華したため失敗した。そこで現在は気相法によって成長を試みており、5mm×0.5mm×0.1mm程度の単結晶が得られている。今後は再に大きな結晶成長をめざす予定である。又非晶質【SnO_2】に【H_2TPP】色素を真空蒸着し、100°Kに冷却後、【H_2TPP】からの発見強度を膜厚を変えて測定した。【H_2TPP】の平均膜厚が10Å程度、即ち【SnO_2】表面に分子状に附着した場合は【H_2TPP】からの励起子発光が極端に減少し10%程度しか観測されなかった。このことは【H_2TPP】から【SnO_2】へのエネルギー移動が起こり、非輻射過程が支配的になることを示している。又【SnO_2】の電気伝導度が高い場合ほど発光のクエンチング効果は大きいことを見出した。この現象は次のような機構により理解できる。【H_2TPP】で励起された電子は【SnO_2】との界面で【SnO_2】側の伝導電子の偏極による電場でイオン化し、その電子は【SnO_2】伝導電子に変わり、更に【H_2TPP】分子の正孔と再結合する。そのために【H_2TPP】の励起子による発光が減少すると考えられる。今後は【SnO_2】単結晶を基板にしたエネルギー移動機構を研究する予定である。
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