研究概要 |
人工合成したSi【O_2】,【Al_2】【O_3】を主成分とするモルデナイト結晶の一次元細孔中に、セレン、テルル等のカルコゲンを閉じ込めることに成功した。細孔中の原子配列についての詳細を検討するため、高エネルギー研放射光施設を利用してEXAFS測定を行った結果、カルコゲンは一次元鎖状構造を有し、その結合長は三次元trigonal結晶と異なり、明らかに収縮していることが判明した。次に、液体ヘリウム温度まで測定可能な光音響分光測定装置(PAS)を製作し、カルコゲンを内藏するモルデナイトの光学的特性を調べた。モルデナイト中の一次元セレン鎖の吸収端は約2.6evで結晶セレンに比べ、著しく高エネルギー側にシフトしていることが明らかになった。これらの結果から、隣接鎖間の相互作用を取り除いた一次元鎖では三次元結晶に比べ、鎖内の共有結合が著しく強くなっていることが結論される。低温で、カルコゲンを内藏するモルデナイトにバンドギヤップ光を照射すると、光学キャップ内の1ev近傍と1.9ev近傍に新しい吸収帯が出現する(光黒化現象)ことが、PAS測定から明らかになった。ESRの測定結果と合わせて、1.9evの吸収帯は鎖の切断による欠陥に由来する。また、1evの吸収帯は励起子によると考えられる。モルデナイト中の【Na^+】イオンを【H^+】,【K^+】,【Rb^+】,【Ca^(2+)】,【Cu^(2+)】,【Co^(2+)】,【Ni^(2+)】,【Fe^(2+)】等の陽イオンで置換し、細孔内のカルコゲン鎖の光学的特性に及ぼす影響を調べた。この結果、【Co^(2+)】等の遷移金属イオンはカルコゲン鎖に著しい影響を及ぼし、光学キャップが消失し、カルコゲン鎖が金属化していくことが明らかになった。【^(125)Te】のメスバラアー測定、光電子分光測定から、Coからカルコゲンに電荷が移動していることが結論される。理論的には、孤立セレン鎖の基底状態や種々の欠陥の電子一格子構造の計算を行い、モルデナイト中のセレンのらせん周期は3.3で、二面角のゆらぎが大きいこと等興味ある結果を得た。
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