超高速自由電子ビームを誘電率の異る互違多層薄膜を通過させたときに発生するX線の遷移放射(transition radiation)現象を利用して、選択的に単一波長で発振するX線自由電子レーザの基礎的研究を行い次の成果を得た。 1.多層膜からのコヒーレントな遷移放射の機構の解明を行い、その利得係数が最大となるような解析上の最適化の手順を確認した。その方法に従って誘導遷移放射に関する分散方程式を解くことにより利得係数の算出を行った。その結果warm beamでは利得係数(αL)が【10^(-3)】、cold beamの短い相互作用長ではαLが【10^(-1)】〜【10^(-2)】と小さいので、レーザ発振の利得を得るのは困難であるが、cold beamの長い相互作用長の場合、一例としてX線の波長1〔【A!゜】〕、電子ビームエネルギ20〔GeV〕、電子ビーム密度5×【10^(10)】〔A/【cm^2】、薄膜枚数200において13〔dB〕の利得の得られることを確認した。 2.電子ビームが誘電体薄膜または金属薄膜に入射したときに構成分子と衝突して散乱し、かつこの現象が連続多重に起る。これを多重散乱というが、この現象がレーザ作用に及ぼす影響を解析的に調べるために衝突効果を考慮したVlasov方程式を導き、これとMaxwellの方程式を連立して解くことにより、緩和時間(t)を含んだ分散関係式を求め、利得係数を算出した。計算機を援用して数値計算を行い、cold beamで長い相互作用の場合の利得係数の多重散乱による減少効果を数値的に確認した。例として1の例でτ=1×【10^(-9)】〔s〕の場合利得は7.5dBとなる。 3.金属薄膜形成の実験として、DCマグネトロンスパッタ装置を購入整備し、NbN薄膜の形成を行い、一例として、Ar圧力7〔mTorr〕、基板温度約300゜〔c〕において、膜の堆積速度150〔【A!゜】/min〕、膜厚800〜1500〔【AO゜】〕を得ている。
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