本年度はアルバックPHI社によって開発された高分解能電子分析器を取付けた複合表面解析装置を購入し、試料支持部に工夫を加えると共に、高分解能電顕法と組合せることによって、自然科学、特に材料科学の分野での新しい研究手法を確立することを目的とした本研究の第一目標は一応達成することができた。 現在多くの分野で新しい素材の開発が熱望されているが、材料に新しい機能を与えるためには原子または分子間の結合状態に変化を与えることが必要である。その一例がアモルファス材料とか低次元材料といわれるものであるが、そのような新素材の開発には原子レベルでの結合状態を正確に把握することが要求される。本研究では、まずAl-2.2at%Cu合金を用いて、従来不明とされてきたいわゆるG.P.ゾーンの形成について調べた結果、一種のクラスターと考えられるG.P.ゾーンで既にAl原子はCu原子と十分な相互作用を示していること、および固溶体としてのCu原子からCu原子のクラスターが形成される過程で他のAl格子を歪ませる度合の変化することがオージェ価電子スペクトル法で確かめることができた。さらにこの手法は、Fe-B系合金のアモルファスの結晶化過程、Ga-As系混晶半導体にも適用して、従来での手法では確認することが困難だった局所的な価電子の挙動に関する情報が得られることを実証できた。その結果、この手法を用いることによって溶質原子の局所濃度および各構成原子の配位数と価電子の移動に関する重要な知見が得られることが実証できた。従って、今後は更に試料条件の調整とともに、装置の中でその場実験の可能な機構を組込み、この手法の適用範囲の拡大と、手法の精度の向上を試みる。それと同時に、高分解能電顕との試料交換が円滑、かつ高真空で行なえるよう、試料交換機構にも工夫を加える。
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