研究概要 |
溶接部の透過X線写真には影と呼ばれるまだら模様があらわれる。この原因として、溶接金属中の粗大粒によるX線回折という説が有力であった。筆者はこの通説を否定し、影は単なるラウエはん点ではなく、溶接金属中の内部ひずみによってX線回折能が増大するため発生するという新しい考え方を提唱してきた。 昭和60,61年度科学研究費の補助を得て行なわれた研究は、これまでにすでに提唱してきた内部ひずみ説を実証する一方で、影と溶接部の機械的性質の関係を明らかにする目的で行なわれた。 まず影の発生機構という点では、X線回折説とともに従来から主張されてきた成分偏析を原因とする説について検討を加え、溶接金属中の一定領域内に数個の隣り合う粗大粒を特定し、これらからの回折X線による以外に影は発生しないことを確認し、もってX線回折説の正しいことを明らかにした。 また影の形態という立場からも、溶接中央部にあらわれる特殊な点状の影に注目し、この影もまた溶接中央部に縦に生長した柱状晶からのX線回折によって生ずるものであることをたしかめ、もって筆者の提唱する、内部ひずみを考慮したX線回折説によって充分説明できることを示した。 さらに、フェライト量を広範に変えたオーステナイト系ステンレス溶接金属ならびに通常の低炭素鋼溶接部について影と機械的性質の関係を明らかにし、もって溶接部の透過X線写真上にあらわれる影のコントラストをみて、その溶接部の機械的性質を推定するという従来なかった全く新しい形の非破壊検査法を確立した。
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