研究概要 |
本年度はイオン照射による合金材料のミクロ組成変化に対する検討を, フェライト系ステンレス鋼の照射下の析出物生成促進および相安定性を中心として行った. 対象とした材料は, Feー9Crー8Moー4Niの組成を持った鋼であり, 未照射の組織はフェライト相とマルテンサイト相の比が約1:1制ある. この鋼は650℃で100時間の時効処理によってラーフェス相(Fe_2Mo)が生成し, その高温強度はオーステナイト鋼と同程度に高い. 溶体化材に対して3MeVニッケルイオンを照射したところ, 時効では析出がおこらない温度においても, フェライト相中にラーフェス相が析出し, イオン照射によりその生成が促進されることが明らかにされた. この事実から, 材料全体が変質しないような温度でイオン照射を行うことによって, 材料表面の性質のみをコントロールできることがわった. 50dpaを越する多量のイオン照射では, 溶体化材・時効材ともにマルテンサイト相中にオーステナイト相が帯状に生成し, その中にボイドの生成が観察された. この場合の材料温度は425〜575℃であったが, この範囲ではマルテンサイト相のオーステナイト相への逆変態は熱的にはおこりえず, イオン照射下では逆変態が促進されるという鉄鋼材料にとってきわめて注目に値する結果が得られた. EDS分析の結果から, オーステナイト相との界面付近にニッケルが照射下偏析によって濃縮されることが明らかとなり, マルテンサイト相の照射下不安定性の一因と考えられる. 475℃および575℃での200dpa照射ではマルテンサイト相中のほとんどの領域がオーステナイト相に変化している. また時効材のマルテンサイト相中のラーフェス相はオーステナイト相の照射下での生成の結果, 界面において再固溶がおこることがわかった.
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