研究概要 |
昭和60年度は高強力繊維作製のための基礎となる実験に重点を置いた。以下研究計画書に記載した各項目にしたがい本年度の実績を報告する。 1)高強力繊維の構造究明 本年度は高強力ポリエチレン繊維と通常の繊維の間の構造の違い、および分子鎖自体が剛直な芳香族繊維の高次構造を主として走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いて形態学的に検討した。その結果力学的に弱点となる構造欠陥部は小さい単位で均一に分散しているのが強力繊維の特徴であることが明らかとなった。当年度の科研費で購入したX線用PSPCシステムは現在X線回折強度解析のためのソフトを開発中であるため、上記欠陥部のより詳細な構造については次年度明らかにする予定である。 2)高分子ゲル作製およびゲル構造の究明 この研究はまず超高分子量ポリエチレン,ポリビニルアルコールについて行われた。ポリエチレンゲル押出し糸の電子顕微鏡観察により、高分子特有の分子鎖折りたたみ板状晶が押出糸方向に板面を揃えて平行に配列していることが確認され、この構造が超延伸に好都合な組織であることが明らかになった。ポリビニルアルコールの反復凍結によるゲル弾性体の作製では二相分離をともなった結晶化現象が弾性体の網目構造に大きく寄与していることが明らかとなった。 3)ゲル紡糸条件の確立とゲル紡糸機構の究明 強力繊維形成のためには、超高分子量鎖が本質的に必要なのか、あるいは単に成形過程で折りたたみ鎖の少ない構造を作るために必要なのかを解明することが重要である。低分子量(Mv=〜【10^4】)のポリエチレンと超高分子量物(Mv〜【10^6】)をブレンドしてゲル紡糸一超延を行い、できた糸の力学測定の結果、後者の成形のために超高分子量が好都合なだけであることが判った。
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