研究概要 |
本研究の目的は、生物界に広く分布する蛋白質分解酵素の機能を抑止するボーマン・バーク型阻害蛋白質(インヒビター)の構造の機能を研究し、その生物学的役割を解明することにある。本インヒビターは豆類中に広く分布するアミノ酸60〜80の小さな蛋白質であるが、二つの活性中心をもち、アミノ酸組成が特異的で、また7個ものジスルフィド結合をもっている。生物学的のみならず、結晶学的にも、構造化学的にも注目を集めている。一次構造の類似した多くの種類があるが、結晶構造解析進行中のものは、小豆のAB-【I】型、ピーナッツのA-【II】およびB-【III】型などである。またAB-【I】とA-【II】については、トリプシンとの複合体の結晶ができ、解析進行中である。 このうちAB-【I】+トリプシン(1:1)複合体の結晶は2.3Å分解能の電子密度図を得て、構造の精密化が進行中である。結晶は正方晶系で、空間群はP【4_1】【夫_1】2,a=55.5,c=181.7Å,Z=8である。硝酸ウラニルのみが重原子同型置換体を与え、写真法でα=2.3Åまでの強度データを測定した。Uの異常分散効果および分子置換法で求めたトリプシンの位置を利用して位相角を決定し、3Åと2.3Å分解能の電子密度図を作成した。二回軸のまわりに二つのインヒビターが二量体をつくっている。一つのインヒビターは長く伸びた形で、それぞれ一個の活性中心をもつ二つのドメインと主鎖末端部とから成っている。トリプシンの構造は單体のそれとほぼ同じであるが、その酵素活性中心にはインヒビターのリジン26をもつ阻害活性部位が深く入り込み、酵素作用を立体的に阻害している様子がよく分かる。 同時に單体のAB-【I】とA-【II】については、重原子同型置換法と分子置換法を併用して解析を進めている。現在A-【II】については回折強度を測定し、電子密度図を作成し、構造を検討中である。 研究はほぼ順調に進行し、期間内に所期の目的を達成できよう。
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