本研究の最終目標は、蛋白質の立体構造を直接に反映する主鎖ポリペプチドのカルボニル炭素【^(13)C】-NMRシグナルを用いて、溶液内高次構造(およびその動的変化)を研究・評価する新しい手法の確立にある。そこで本年度においては、我々が独自に開発した種々の安定同位体ラベル-NMR研究手法を駆使し、SSIのカルボニル炭素領域に生じる128本のシグナルを各アミノ酸残基別に分類し、かつ可及的多数のシグナルを一次構造上の特定部位に帰属することを重点的な目標として努力した。その結果、SSIサブユニットを構成する113残基の内アスパラギン酸(6)・アスパラギン(3)の計9残基の主鎖カルボニル炭素を除き、119本のシグナルをアミノ酸残基の種類別に分類することに成功した。さらに、それらの内かなりの部分の一義的帰属も行った。この結果、SSIは最も多くの帰属の確定したNMRシグナルを持つ高分子量蛋白質となった。このように、主鎖全域に渡る帰属の確定したNMRシグナルを利用して、従来は予想も出来なかった蛋白質の高次構造の微細な動的変化を、極めて詳細に知ることが可能となった。例えば、【^(71)Cys】-【Cys^(101)】のジスルフィド結合を還元切断することにより誘起される構造変化はサブユニットの約半分に相当するC-末端側のポリペプチド鎖に局限されること、【^(18)Lys】-【^(76)Asp】間の静電相互作用の果たすSSIの立体構造形成・維持に果たす重要な役割、また【^(106)His】の僅かな構造変化がSSIの特定部位におおきな影響を与えることなどが明らかとなった。これらは何れも従来のNMR研究手法では得難いものであるばかりではなく、蛋白質構造化学上極めて重要な知見でもある。次年度においては、より多くの残基のカルボニル炭素【^(13)C】-NMRシグナルの一義的帰属、およびカルボニル炭素の【^(13)C】-NMRの帰属の側鎖原子団への拡張を通じてこれらの諸点をより明確にしてゆきたい。
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