生物にはそれぞれの種に固有の寿命があり、それらは遺伝的にコントロールされていると考えられる。本研究では、発生時間の遺伝的コントロールを突然変異体を用いて解析することを試み、細胞性粘菌D.discoideumをモデルシステムとして用いた。細胞性粘菌は通常、24時間で発生を終了して子実体を形成するが、まず、16時間で終了する突然変異体を多数、分離した。それらを遺伝解析した結果、発生時間の短縮は単一の劣性遺伝子によって支配されていることが明らかにされた。さらに、これらの突然変異体ではcAMPのメタボリズムが異常であることも判明した。発生時間をコントロールする遺伝子rdeの構造とその産生物を知るため、遺伝子の単離、クローニングを目指した。まず、粘菌細胞と大腸菌のシャトルベクターの開発を試み、野外より多数の細胞性粘菌を分離して、プラスミドの有無を調べた。発見したプラスミドに大腸菌のプラスミドpBR322をつなぎ合わせ、シャトルベクターを作製した。同じ頃、カリフォルニア大学でもシャトルベクターpB10SXが開発された。実験の最初のネックは、ベクターの粘菌細胞への導入であった。従来の塩化カルシウム法を工夫改良したが、導入効率はきわめて低かった。しかし、細胞に高電圧をかけることにより導入率を数百倍にあげることに成功した(本年度中に発表予定)。もう一つのネックは、クローニングのために大腸菌に導入したベクターDNAに欠失が生ずることである。この点を克服するために大腸菌の系統株の検討を行っている。欠失頻度が系統株によって異なることから、欠失を生じさせない適切な系統株を見出すことに、現在、期待をかけている。
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