研究概要 |
ニンジン培養細胞を用いて、単細胞から高頻度かつ同調的に不定胚形成が誘導される実験系を確立した。この系により不定胚形成過程は、(1)単細胞から細胞塊を形成するオーキシンを必要とする過程,(2)細胞塊から不定胚が分化し、オーキシンによって阻害させる過程に解析された。不定胚分化の決定は(1)の過程中におこり、分裂活性,DNA合成活性,RNA合成活性,mRNAの局在化,カルシウムイオンの局在化などの細胞塊内の極性発現が不定胚分化の決定に強く関係することが明らかとなった。 次に単細胞にマイクロインジェクションにより外来遺伝子の導入をおこない、発生工学的手法の開発を試みた。マイクロインジェクトされた単細胞は約70%が分裂し、約50%が分化した。さらにTiプラスミドのDNAフラグメントを導入したところ、分化した細胞の約20%が形質転換し、その約50%の分化した細胞で、導入した外来遺伝子が発現していた。これはオクトピンの生成能で確かめられたが、マイクロインジェクションで導入した外来遺伝子が分化した植物体で発現した初めての例で、形質転換したクローン植物を高頻度で得られるモデル系が確立されたことになる。 さらに不定胚に特異的なタンパクに対するモノクローナル抗体を用いて、分化全能性のマーカーとなるようなタンパクが、初めの単細胞に存在し、不定胚形成に伴い増加することが確認された。 またこのモノクローナル抗体を初めの単細胞にマイクロインジェクトすると、不定胚の分化は停止することから、このモノクローナル抗体に反応するタンパクは、不定胚分化に重要なはたらきをすることが明らかとなった。 これらの成果から分化全能性の発現機構について、重要な知見が得られ、その機構の解明が進んだものといえよう。
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