研究概要 |
研究実績の概要は次の通りである. 1.リグニンの微生物分解機構の解明は,未利用再生産可能資源であるリグニンの有用物質への生化学変換,またパルプ廃液の微生物処理の基礎的研究として重要である. 代表的なリグニン分解菌である白色腐朽菌の一種,Phーanerochaete chrysosporiumのリグニン分解酵素(リグニンペルオキシダーゼ)が,リグニンサブストラクチャーの側鎖の開裂のみならず, リグニンサブストラクチャーモデル化合物の芳香核開裂をも触媒することは, 昨年度我々が報告した. 2.本年度の研究に於ては, この芳香核開裂が, この酵素によるベンゼン核の一電子酸化を初発反応とし, そこで生成したカチオンラジカル中間体への水等の求核試薬の付加と酸素分子とのラジカルカップリングを含む自動酸化的反応で進行することを, 安定同位体を用いて初めて証明した. 従来, 微生物による芳香核開裂を触媒する酵素としては, ジオキシゲナーゼが広く知られてきたが, リグニンペルオキシダーゼによるリグニンの芳香核開裂は, これとは全く異なる機構で進行していることが本研究によって初めて明らかにされた. 3.また従来ラッカーゼは, 多くの白色腐朽菌がこれを産生することが知られていたにもかかわらず, そのリグニン分解に対する役割が十分解明されたとは言えなかったので, ラッカーゼのリグニンサブストラクチャーに対する作用について検討した. その結果, ラッカーゼは, βー1型リグニンサブストラクチャーの側鎖のCαーCβ開裂ならびにアルキルフェニル開裂をひきおこすことが示され, リグニンペルオキシダーゼのみならずラッカーゼもリグニン分解に関与していることが示唆された.
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