研究概要 |
セロトニン・チログロブリン複合体を投与して作成した抗血清を用い、中枢神経組織内に広く分布するセロトニンニューロンとその突起について、免疫組織化学(PAP法およびABC法)的検索を行い、中枢機能の発現に対するセロトニンの役割を形態学的側面から追究した。ゲツ歯類,ネコ,イヌおよびサルを用い、セロトニンニューロンの細胞体の脳幹における分布,グループ分類,その数について明らかにし、動物種差を明確にした。大脳皮質(新皮質,原皮質,古皮質),外側膝状体,上丘および小脳皮質について、層構造とセロトニン線維分布の密度差(線維の走行距離と小結節数の計測による)を明らかにした。錐体外路系に属する諸核、すなわち線条体,視床下核,黒質,オリーブ複合体,小脳核等における特徴的分布について、光学顕微鏡的ならびに電子顕微鏡的レベルで追究し、通過型シナプスを主体とするセロトニン線維の伝達機構について検索を進めた。 セロトニン線維の分布が神経組織内に限定されず、脳表面から髄腔内を走行する血管の壁に向かって出、その周囲に纒絡し、また一方脳室内に進入して上衣細胞表面に高い密度をもつ神経叢を形成することは、このニューロン系の特異的な形態といえる。髄腔内神経叢は走査電顕的観察を行うことが容易であることから、種々の薬物投与の影響を観察するのに適している。この神経叢の分析から、セロトニンニューロンの突起は、しばしば分枝間に吻合を生じ、広大な神経網を形成することを認めた。同様の現象は縫線核の組織培養によっても明瞭に観察され、また高度な分布を認める中枢内の種々の領域でも確認された。このような特殊な線維の分岐形態は、一個のニューロンの発火によって多数のニューロンが同時的に信号を受けるのに適した形態と考えられ、この点を追究することによってセロトニンの中枢機能における役割の解明に迫ることができると考えられる。
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