研究概要 |
フラビン酵素は三つの酸化還元状態で安定して存在できる. 即,酸化型,セミキノン型,完全還元型の三状態である. このことがフラビン酵素の多機能性の一因となっている. セミキノン型はさらにアニオン型とカチオン型の二状態をとりうるが, オキシダーゼ群として分類されるフラビン酵素はすべてアニオン型セミキノンの状態となる. ここではDーアミノ酸酸化酵素を用いてアニオン型セミキノンの安定化機構について検討した. 本研究はまたフラビンー蛋白相互作用および酵素ーリガント相互作用の機構についても明らかにするものである. 結果は以下にまとめられる. (1)既に明らかにされているように,本酵素を還元するとアニオン型セミキノンが発生する. さらに還元を続けると完全還元型となる. (2)安息香酸存在下で本酵素を光還元するとセミキノンの形成はみられず完全還元型へと変化する. この場合安息香酸には正電荷が存在しない事が重要である. この結果は既に報告されている電気化学的還元による結果と一致する. (3)ピコリン酸,イミノ酸の存在下で本酵素を還元するとアニオン型セミキノンがが出現し, これは完全還元型へは移行しない. 共鳴ラマン分光法により, セミキノンに結合しているこれらのリガントはチッソにプロトンの付加したカチオン型であり, さらにこれらのリガントはフラビンのC(4a)ーN(5)の位置と強く相互作用している事が結論された. 以上よりフラビン近傍での正電荷をもった分子の存在が, 負電荷をもったアニオン型セミキノンを安定化していると考えられる. 従ってリガントの存在しない時にはアポ蛋白の正電荷がフラビン近傍に存在しているはずである.
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