1. 中枢神経系の細胞骨格に結合して存在するカルシウム依存性プロテアーゼおよび中枢神経組織の細胞質に分布する可溶性のカルシウム依存性プロテアーゼをそれぞれ精製し、その酵素学的性質を比較・検討した。 2. ニューロフィラメントと結合して存在する分子量52Kの蛋白質について、その蛋白化学的な性質を検討すると同時に、これにたいする特異的なポリクローン抗体を作成し、中枢神経各部位における局在を決定した。この52K蛋白質(NAPと命名)はニューロフィラメントと微小管を架橋する機能を持つことが推定されるので、現在電子顕微鏡のレベルでその確認を進めている。 3. ガングリオシドおよびシアル酸基供与体であるCMP-シアル酸が、それぞれ異なる速度で軸索内を移動していることを見出した。前者は遅い軸索流、後者は中間速の軸索流に属しているので、軸索内細胞骨格および膜系オルガネラとの結合様式を現在検討中である。さらにCMP-シアル酸の軸索内移動は軸索末端(前シナプス域)におけるガングリオシドの化学的修飾を示唆しており、この点の検討をも進めつつある。 4. グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)の超微量定量法を開発した。これを単一ニューロンに適用し、従来コリン作動性であることが確立されている前角運動ニューロンにGAD活性が共存することを定量的に証明した。さらに網膜の各層および単一ニューロンについてGAD活性を測定し、網膜発育時の変化、網膜変性疾患における変化を検討中である。また従来神経系にのみ存在すると考えられて来たGADが卵管に高濃度に分布し、性周期に応じて大幅に変動することを見出した。従ってγ-アミノ酪酸は神経伝達物質としての機能の他に、ある種のトロフィックな作用を有することが示唆された。
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