昭和61年度内にえられた新しい知見は、以下のごとくである。 1. 軸索内微小管の存在様式:軸索内の微小管には、低温によって脱重合し可溶化される型と、低温に安定で可溶化されぬ型がある。可溶性チューブリンは全体の70%を占め、細胞質チューブリンと同等のサブユニット構成を示し、またタウ因子と共存する。不溶性チューブリンは残りの30%を占め、主にβ-チューブリンから成り、ニューロフィラメント蛋白質およびニューロフィラメント付随蛋白質と共存する。可溶性チューブリンは軸索内輸送に直接的に関与する機能型であり、これにたいして不溶性チューブリンは軸索の構造維持により深く関与するものと推定した。 2. ニューロフィラメント蛋白質、ことにその200Kサブユニットは、軸索内を移動するにあたって、絶えず燐酸化、脱燐酸化を繰り返していることを発見した。 3. 昭和60年度に報告したガングリオシドGD12およびCMP-シアル酸の軸索内輸送に関して、この両物質のそれぞれと同時に軸索内を移動する蛋白質(分子量はそれぞれ55K)の存在を認めたが、その分子的同定にはまだ成功していない。 4. 前年度に開発したグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)ならびにGABAの超微量定量法を網膜変性ミュータント・マウスおよびその対照マウスに適用し、光受容細胞の変性・脱落にともない、網膜内のGABA作動系に二相性の特徴的な変化がおこっていることを発見した。 5. これまでに開発してきたコリン作動系、GABA作動系に加えて、カテコールアミン作動系を扱うために、現在チロシン水酸化酵素の超微量定量技術を開発中であり、さらに酵素サイクリング法と酵素免疫測定を組合わせて、高分子蛋白の超微定量を開発している。
|