カルパイン(【Ca^(2+)】依存性システインプロテイナーゼ)に特異的な内因性インヒビターであるカルパスタチンは、カルパインと同様、各組織・細胞に広く分布していることが知られ、また、その生化学的諸性質は急速に明らかにされつつあるが、そのプロテオリシス制御機構は全くといってよいほど未解明である。 本研究は、カルパイン及びカルパスタチンの蛋白質としての構造や性質の研究を続けるとともに、細胞内におけるカルパスタチンの局在とその動態を明らかにし、また、カルパイン・基質蛋白質・カルパスタチン3者間相互作用の実体を解明しようとするものである。 本年度において行った諸方面からの研究中、とくにまとまった成果をあげえたのは、次の2点である。 (1) カルパイン30kDaサブユニット(小サブユニット)の構造 カルパインは80kDaの大サブユニットの小サブユニットのヘテロ二量体であり、大サブユニットはカルモデュリン様部分をもったシステインプロテイナゼ分子であることはすでに知られていたが、われわれは、小サブユニットのcDNAのクローニングとその塩基配列解析から、小サブユニットもカルモデュリン様部分をもつこと、及び、これとは別にそのN末端近くに長鎖ポリグリシン配列をもつことを明らかにした。この知見は将来、カルパスタチンとの相互作用の解明上重要な情報を提供したことになる。 (2) 107kDaカルパスタチンの精製 従来赤血球から取得されていた約70kDaのカルパスタチンとは異なった分子として、ブタ心筋から107kDaカルパスタチンを単離精製した。カルパインを8分子結合できる性質があり、免疫学的には70kDaカルパスタチンとよく交叉反応を示すが、両者の独立性がどの程度のものかはなお研究中であって確言できない。
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