研究概要 |
私共が提唱しているプロテインキナーゼCを介する生理活性物質の受容機構は、代謝内分泌や神経生理学の領域のみでなく、細胞分化や癌研究、免疫学、心脈管学など広い領域にわたって細胞反応の基本構傷の解明、病態解析への足がかりとして注目を集めている。本研究は各種の外界シグナルに対する細胞応答に際して重要な役割を担うプロティンキナーゼCに焦点をあて検討をおこない、以下の成果をおさめた。即ち、プロテインキナーゼCはイノシトールリン脂質の代謝回転により生成される1,2-sn-ジアシルグリセロール(DG)により活性化を受けるが、合成DGを用いた解析の結果、試験管内のみならず細胞を用いた実験系においてもプロテインキナーゼCは1,2-sn-DGにより活性化をうけ、2,3-sn-DGや1,3-DGによってはほとんど活性化されず、本酵素がDGの立体異性体を認識していることが明らかとなった。また、プロテインキナーゼCを大量に分離精製する方法を確立し、本酵素のアミノ酸組成とその部分構造を解析した結果、本酵素には他の蛋白質リン酸化酵素と類似したアミノ酸配列の部分をもつことが明らかとなった。またプロテインキナーゼCのアミノ酸組成中の疎水性アミノ酸の含有率は中程度であるのにかかわらず精製酵素は強い疎水性を示し、本酵素の分子中に脂質により活性調節をうける疎水性ドメインが存在するという従来の解析結果を支持する結果が得られた。そこで脂質によるプロテインキナーゼCの活性化機構の検討をおこなうため、リン脂質の単分子膜を用いて解析をおこなったところ、単分子膜においてもDGはプロテインキナーゼCを活性化し、またその活性化はリン脂質の密度に依存することが明らかとなった。次年度以降は、本年度に得られたプロテインキナーゼCの酵素化学的、生化学的基盤をもとにして生理的および病態現象の物質的背景の解析をおこなうことを計画している。
|