研究概要 |
昭和62年度における研究実績の概要は下記の如きであった. 1.セレニウムはメチル水銀の毒性に対して延命効果があることで知られているが, この両物質を同時にラットに投与した場合のサーカディアンルズムは破壊され, 水銀濃度も高値を示し, メチル水銀群とは異なる結果であった. このことから視交叉上核の破壊が示唆された. 2.メチル, エチル, フェニル水銀を直接脳室内に投与した場合, 脳の各部位における水銀濃度は, メチル水銀及びエチル水銀群は同程度の濃度であったが, フェニル水銀群はこれら群の約1/2程度であり, 投与後のこれら各群ラットの行動量はフェニル水銀群が最も高く, 次いでエチル水銀, メチル水銀群の順となり, 水銀の毒性の対応して行動量が低下した. 3.メチル水銀を3日間と6日間連続して投与し, 3日, 6日及び発症時における脳内神経伝達物質の濃確を測定した場合, 脳内の水銀濃度は初期において黒質が高いが, 後期には大脳皮質, 線条体が高濃度となり, ノルエピネフェリン濃度は発症時に低下した. またドーパミン濃度は黒質で低下, セロトニンは脳幹部で上昇した. 即ち水銀中毒の進行過程でカテコールアミン濃度に影響が見られ, カテコールアミンの増減変化が起こることが判明した. 4.水銀やCdの様な金属は, 無機金属イオンの状態では血清中のSアミノ酸及ペプタイドと結合して存在している. Cdの場合は大部分はメルカプトアルブミンと結合しており, 過剰のCdは低蛋白と結合しているので無機水銀も同様の形態への変換の可能性が考えられた. 5.中枢神経に対して毒性を現さないオゾンで暴露した場合, 飲水行動が低下し, また過酸化脂質量の増加, リン脂質代謝に影響を与えた. 先に報告した水銀投与ラットにおいても一部同様の結果であったことから, 水銀中毒は総合的に評価する必要がある.
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