抗てんかん薬フェニトインの特異的結合部位に対して生体膜のイノシトールリン脂質であるポリホスホイノシチド(PPI)が親和性を示すことを認めたため、抗てんかん薬の作用機序について膜脂質をはじめ生体膜の生化学的機能の面から検討を行った。まず材料としてのPPIをCMセルロースを用いて脳より効率よく調製する方法を開発した。次にPPIの水解によって生成し、細胞内Ca動員に関与するセカンドメッセンジャーIP_3を簡便に分離することに成功した。イノシチド(PI)レスポンスに対するけいれん関連物質の影響を検討すると、けいれん促進性とされるムスカリン性アセチルコリンレセプターのアゴニストであるカルバコール、高濃度K^+イオン、グルタミン酸が促進的に作用した。一方けいれん抑制性とされるノルエピネフリンによってもPIレスポンスは促進され、けいれん剤ペンチレンテトラゾールや興奮性アミノ酸のNMDAでは影響が認められず、これらの薬物はPIレスポンスを介してけいれんに関わっている可能性は少ない。またセカンドメッセンジャーであるサイクリックヌクレオチドに対する興奮性、抑制性物質の影響を検討したところ上述のすべての興奮性物質でサイクリックGMP(cGMP)が上昇したが、抑制性物質ではこのような作用は認められなかった。cAMPではこのような傾向は認められず、cGMPとけいれん発現との関連が示唆されたが、各種抗てんかん薬はcGMPレベルには影響を与えなかった。さらにPPI代謝により生成するセカンドメッセンジャーの一つであるIP_3に対するレセプターに対する抗てんかん薬の効果を検討した。フェニトイン等の抗てんかん薬はIP_3の本レセプターへの結合に影響を与えなかったが、IP_3による本レセプターを介した細胞内Ca遊離を阻害した。IP_3レセプターへの抗てんかん薬の作用機構については今後の研究が更に必要である。
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