研究概要 |
オピオイドペプチドは生体に広く分布するペプチドであるが, その意義については不明の点が多い. この研究ではまずヒト及び動物の脳やその他の組織での3種のオピオイドペプチド前駆体(POMC, proenkephilin A, proenkephalin B)のプロセシングを比較し, 組織により同じ前駆体から異った最終産物を生ずること, 従って異った作用に関与する可能性があることが示された. またproenkephalin Bの遺伝子構造からその存在が予測されたロイモルフィン(LM)が実在すること, このLMはカッパー受容体アゴニストで, 強いモルヒネ様活性を有することを明らかにした. 更にLMの脳室内投与はプロラクチン(PRL), GHの分泌を促進した. とくにPRL分泌作用は強力で, その作用の一部は下垂体への直接作用であることが示唆された. またオピオイドのGH分泌促進作用はGRFを介することも明らかにされた. LMの脳室内投与はアンジオテンシンーII(AII)により誘起されたバソプレッシン(AVP)放出を抑制した. この作用はナロキソンで阻害された. またナロキソン自身はAVP放出を軽度に促進することも見出され, LMが生理的AVP放出調節因子であることが示唆された. LMはまたラットにおいて顕著な血圧降下作用を示した. 更にLMはまた飲水制限, AIIなどによる飲水を抑制した. LMの脳内分布と心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)のそれに若干のオーバーラップがあることからANPの作用についても検討した. ANPもAIIや飲水制限によって誘起される飲水, AIIによる血圧上昇やAVP放出を抑制することが明らかになったが, 両者の作用に相違点も認められた. 以上の事実から脳内にはレニン・アンジオテンシン系とANP系があり, 体液, 血圧調節に拮抗的に働いていること, LMなどのオピオイドもこの系に関与していることが示唆された.
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