研究概要 |
ブタ血清中に見いだされた胸腺液性因子Serum Thymic Factor(STF)が、ヒトではどのような生理的意義を有するかを明らかにするため、STFのアミノ酸配列に基づいて合成したSTFと家兎抗合成STF抗血清を用いて確立し得たSTF特異的RIA系にて、0才から69才迄の健康人218人の血漿STF免疫活性濃度を計測し、0ヵ月から7ヵ月迄のブタ67頭の場合と比較した。その結果、ブタでは1ヵ月令で最低値[13±4pg/ml(n=10)]、5ヵ月令で最高値[39±5pg/ml(n=5)]を示し、発育に相関したSTF免疫活性の増加を認めたのに対して、ヒトでは加令に伴う一定した傾向は見られなかった。ロゼット阻止反応による生物学的検討では、血中STFは胸腺の自然退縮を反映して加令と共に減少するとされているが、この矛盾を検討するために、胸腺以外にSTF産生組織があるか否かを、先ず1ヵ月令と6ヵ月令の各5頭のブタの胸腺,肝,腎,脾について、熱希酢酸抽出物中のSTFを測定したところ、何れの組織にもSTFの存在を認め、その活性は特に肝,腎で強く、胸腺の4倍という高濃度を示した。更に、その免疫活性部分の存在様式をゲル濾過溶出パターンで検討した結果、分子量約6000の大分子型が主成分であり、これはトリプシン処理により、合成STFとほぼ同位置に溶出する小分子画へ移行するのを認めた。血漿中STF免疫活性が大分子領域にも認められることを確認しているので、STFの産生は胸腺のみならず、肝,腎でも行われており、STF自体は大分子型の前駆物質から変換、生成されたものであることが示唆された。ABC法による免疫組織化学的検索では、ヒト小児胸腺の5例中2例、ブタ5頭の肝,腎,胸腺に抗STF抗血清の反応生成物を認めているが、STF産生細胞の同定については今後検討する予定である。
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