研究課題
一般研究(A)
超音波の臨床医学への応用は一般的に診断と治療の二つの面があるが、循環器領域においては専ら診断に限られ、超音波照射が心機能に及ぼす影響は全く未知の領域であった。我々は「超音波を心臓に照射して心機能を高めよう」という方法を超音波心筋刺激法(Ultrasonic Myocardial Stimulation Method;UMS)と命名して、より一層臨床応用に近い課題として本研究を進めた。実験は二つの方向に分かれており、一つはラットにNeelyモデルを使用して、心停止中の照射と種々の薬剤併用により超音波照射の作用機序を探ってゆくものと、犬に右心バイパス法を用いてより臨床に近い形で再灌流時の超音波照射を行い、臨床応用をめざすものとである。今回の研究で得られた結果は下記に示す如くである。(1)Cardioplegia液による心停止後の灌流時に照射したところ、有意に良好な心機能の回復を示した。また、心停止中の照射においても非常に良好な回復が安定して得られた。(2)カルシユウム拮抗剤であるVerapamilにより超音波の作用は拮抗されず、超音波刺激によりカルシユウムが細胞内に取り込まれると言う説は否定的と考えられた。(3)細胞膜を通過しないとされる外因性ATPを併用した実験では、細胞内ATPは有意に良好に保存され、超音波照射による細胞膜透過性の変化を示唆する所見が得られた。(4)犬の実験においても超音波照射によって良好な心機能の回復が得られたため、より臨床で使いやすい形に探触子の形状を改良した。一時探触子の発熱が問題となったが、それも克服され、現在臨床応用に向かって待機中である。以上、本研究の概略について述べたが、超音波の作用機序は未だ不明の点があり、その全容の解明は今後の課題でもある。また、臨床応用に関してはまだ未知の部分もあり、今後慎重な検討をしながらその応用に向けて進みたいと考えている。
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