脊髄から脳幹・視床および大脳皮質にいたる痛覚伝導と鎮痛作用を解明するために、以下の事項について検討した。 1.全身麻酔時、末梢神経刺激の局所脳・脊髄代謝に及ぼす影響 エンフルレン麻酔時、末梢神経刺激の局所脳・脊髄ブドウ糖消費量に及ぼす影響を【^(14)C】-deoxyglucose法を用いて検討した結果、脊髄後角の代謝亢進は麻酔深度の影響を受けないが、大脳知覚野の代謝亢進は深麻酔によく消失することがわかった。 2.電気・温熱およびホルマリン刺激時の代謝変化 末梢神経の電気刺激では、脊髄後角および大脳知覚野の代謝が亢進するが、四肢末梢の小範囲の温熱およびホルマリン刺激では明らかな代謝亢進は認められず、代謝変化をひきおこすためにはより広範囲の刺激を加える必要があることがわかった。 3.モルヒネまたは局所麻酔薬のくも膜下腔および硬膜外注入法 薬物をくも膜下腔または硬膜外に注入する方法は手技的に確立した。モルヒネまたは局所麻酔薬のくも膜下腔および硬膜外注入の鎮痛効果を検討した結果、くも膜下腔投与の方が効果が確実で再現性に優れていることがわかった。 4.モルヒネまたは局所麻酔薬のくも膜下腔注入時の脊髄代謝および その刺激に対する反応 モルヒネまたは局所麻酔薬をくも膜下腔に注入し脊髄局所のブドウ糖消費量を測定した結果、局所麻酔薬の方が脊髄代謝が低く、また刺激時の代謝亢進に対する抑制作用も局所麻酔薬の方が強いことが判明した。 今後、モルヒネの下行性抑制系への作用を含め、痛覚の中継核の代謝変化についてさらに微細に検討を進める。
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