研究概要 |
中枢神経系の代謝マッピングにより、脊髄から脳幹・視床および大脳皮質にいたる痛覚伝導系や下行性抑制系に対する鎮痛薬の作用について検討した結果、以下のことが判明した。 1.モルヒネ10mg/kg静注時の脳・脊髄局所の代謝変化、モルヒネ10mg/kg静注時の脳・脊髄局所のブドウ糖消費を【^(14)C】-deoxyglucose法を用いて測定し、覚醒時と比較検討した結果、脚間核、青斑核および上オリーブ核の代謝はそれぞれ20%,17%および24%低下するが、下行性抑制系に関与する中脳水道周囲灰白質,縫線核,巨大細胞網様核,傍巨大細胞網様核や脊髄から視床・大脳皮質にいたる痛覚伝導系など57部位では代謝変化がみられないことがわかった。 2.モルヒネ10mg/kg静注時の末梢神経刺激に体する中枢神経系の代謝反応、モルヒネ10mg/kg静注時には四肢のピンチなどの刺激にまったく反応せず一見深い麻酔状態にあるように思えるが、モルヒネ10mg/kg静注後、一側坐骨神経を電気刺激して能・脊髄の代謝変化を検討した結果、エンフルレン深麻酔時と異なり大脳皮質において刺激に対する代謝が認められ、大量の鎮痛薬投与による無反応状態は全身麻酔薬による深麻酔状態とは異なることがわかった。 3.モルヒネ硬膜外投与時の脊髄各層の代謝変化、モルヒネ15μgを腰部(腰椎【L_(4-5)】)硬膜外腟に投与し、下肢の鎮痛を確認した後、腰髄各層のブドウ糖消費量を測定し、覚醒時と比較検討した結果、モルヒネ硬膜外投与時には脊髄の糖代謝は変化しないことがわかった。モルヒネくも膜下投与時の脊髄代謝も覚醒時と比べて差がないことがわかった。 今後は、代謝マッピングに電気生理学的手法やsubstance Pの脳内分布測定などを併用して、鎮痛薬の中枢神経系への作用をより多角的に究明していくことが重要であろう。
|