まずイヌの歯を材料として、エナメル質のエナメル象牙境からエナメル質表面に到るエナメル小柱の横断形態の変化を光線顕微鏡ならびに走査電子顕微鏡を用いて詳細に観察した。その結果、エナメル象牙境に近い最深層では、エナメル小柱は直径約2μmの小さな横断像として観察され、これらの小柱の間には広い小柱間質が存在する。エナメル質中層にいたるまでに、エナメル小柱は幅を増し、小柱鞘は展型的な弧門形を呈するようになる。中層部では、小柱鞘が小柱を不完全に取囲むものが見え始め、このような場合小柱は多角形を呈する。エナメル質表層に向うに従って多角形の小柱は次第に増加し、表面直下ではほとんどすべての小柱が完全に小柱鞘に囲まれるようになることがわかった。トームスの突起を走査電子顕微鏡でエナメル質形成に伴う形態変化を検索した。エナメル質形成の開始直后では、エナメル芽細胞の遠心端は平坦であるが、やがて小さな細胞突出物が出現し、次第にS面とN面の面積を増してゆき、中層部形成期では展型的な形態を示すようになる。表層部形成期ではトームスの突起は大きく立上るようになり、全体として切り株状に見える。このことから、エナメル小柱の形態変化はトームスの突起の形態変化とよく一致することがわかった。 昭和61年1月に透過電子顕微鏡HS-600Sが納入され、検収の後直ちにラットのエナメル芽細胞を凍結割断しプリカと超薄切片で細胞接着装置を、またイヌのトームスの突起の立体構造の検索を始めた。接着装置については、技術的に克服すべき点が多く進行が遅れているが、種々の部位における各接着装置を比較検討中である。またイヌのトームスの突起の立体構造の検索も、より良い固定法を検索中である。
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