エナメル質形成機構の進化の研究にあたり、本年度は以下の三つのプロジェクトについて研究をすすめた。 1.霊長類エナメル質の石灰化進行像:ヒトのエナメル質に構造的に最も近いのはサルのそれであると考えられるので、永久歯形成期の日本ザルを用い、屠殺直前にテトラサイクリンを注射して、その非脱灰研磨片をマイクロラジオグラフィーと蛍光顕微鏡法で観察した。その成熟期での石灰化進行像は層により極めて特異的で、特に幅せまい外層でのそれは完成エナメル質で外層が示す化学組成上の特徴と関連していることを思わせる。また、歯冠レベルと咬合面の部位により石灰化完了に要する時間が大幅に異なることがわかった。この石灰化進行像の観察にあたってマルチカラーデータシステムによる画像処理が大きな成果をあげた。 2.魚のエナメロイドでのフッ素濃縮:まず濃縮メカニズムの理解のためにネコザメの歯胚についてマイクロラジオグラフィーとテトラサイクリンラベリング法による石灰化進行像、エレクトロンマイクロプルーブと化学分析によるフッ素の微小部定量、X線回折による結晶解析を平行して行った。その結果、エナメロイド形成の初期段階から大量のフッ素の沈着が起り、フルオルアパタイトを形成することがわかった。更に、系統的に集められた硬骨魚のエナメロイドの分析成績から、そのフッ素含量は魚の系統発生と関連することが確認された。 3.各種の実験条件下でのエナメル質石灰化像の標化:ラットにストロンチウムの投与やマグネシウムの欠乏を起させ、それによる石灰化進行像の変化をマイクロラジオグラフィーとテトラサイクリンラベリング像から観察した。実験条件により独特な石灰化異常像が得られ、その解析によりエナメル質各層での石灰化進行をコントロールするメカニズムを推測することが出来た。
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