研究概要 |
歯の歯冠を被うエナメル質(魚ではエナメルロイド)の形成メカニズムが動物の進化に伴ってどの様に変化してきたかを多角的に検索した. 1.エナメル質・エナメロイドの形成期における石灰化進行像のマイクロラジオグラフィーとテトラサイクリンラベリング法による研究:形成過程の後半(成熟期)において, 石灰化度上昇の勾配, 石灰化の終了時点, 最終的な石灰化度は層によって異なり, 実験的にNaF, SrCl_2を投与したりMg欠乏などを起こさせると, 条件によってそれぞれの層での反応の仕方が異なることがわかった. これはエナメル質, エナメルロイドの石灰化進行のメカニズムは層によって異なることを示唆している. 2.エナメル質・エナメルロイドに含まれる微量元素の濃度と分布パターンと動物の進化との関係:各種の動物の歯牙の研磨片よりまずマイクロラジオグラムを作製, 石灰化像を観察した後, エレクトロンマイクロプルーブによりエナメル質・エナメロイド中のF, Cl, Fe, Cu, Mg, などの定量と分布像の検索を行った. それによって, 魚類のエナメロイドでは魚種によっでFとFe量は大幅に異なり, それは魚の棲息した環境水の種類(淡水, 海水)によるのではなく, 魚の系統発生と密接に関連することがわかった. しかし, 両棲類, 爬虫類, 哺乳類では一部の魚で見られた様な高Fのエナメル質はなく, Fe濃度については系統との関係はあるらしいが, 未だ明らかでない. しかし爬虫類を経て哺乳類になるとCl濃度が上昇し, しかも, 独特な分布パターンを示す様になる. しかも哺乳類では, その最も原始的な段階にある食虫目から有袋類にかけてすべてが同じ特徴的なパターンをそなえている. 以上の諸事実から, エナメル質・エナメロイド系の石灰化組織は形態や構造のみならず, その質(無機相, 有機相)においても進化をとげてきたことがうかがわれる.
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