研究概要 |
象牙質中の非コラーゲン性成分のうち、ホスホホリンとよばれるリンたんぱく質は象牙質に特有のものであり、その化学構造や性質の特徴が明らかにされている。このたんぱく質は、カルシウムイオンやアパタイト結晶に対する親和性が高く、あるいはコラーゲンと結合する能力があることから、石灰化との関連も示唆されている。我々は60,61年度の研究でこれらの分離精製、化学構造の解析、代謝などに関して、或る程度の成果をあげてきているが、さらに各種の新しい手法を導入して研究の発展を計るとともに、硬組織形成に於けるそれらの生理的機能を解明することを目的として、ホスホホリンを分離精製してその性質をさらに詳しく調べた。それらの概要は以下のごとくである。 1)ホスホホリンは2mM程度のカルシウム濃度で沈澱するが、アルカリホスファターゼで処理してエステルリン酸を除去したもの、およびカルボジイミド試薬によりカルボキシル基をブロックした場合にはカルシウムイオン添加によって沈澱せず、一方、アパタイト表面への吸着はこれら酸性基をブロックした場合にはむしろ増加することが確かめられた。 2)ホスホホリンを特異的に染色する方法を考案し、正常および象牙質形成不全症の象牙質標本について組織化学的に検索したところ、このたんぱく質は正常髄周象牙質部分にのみ存在し、形成不全症の象牙質のみならず、外套象牙質、二次象牙質、修復象牙質などにもほとんど存在しないことが確かめられた。これらの結果は象牙質形成機序においていくつかの異なった過程の存在の可能性を示唆するものである。 このような成果によって、象牙質形成の過程において非コラーゲン性たんぱく質、特にホスホホリンの出現が組織発生、分化さらに石灰化の機構の調節に機能している可能性が示された。
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