単一心筋細胞を用いた電気薬理学的手法により、各種薬物の心筋イオンチャンネル制御機構に対する作用機序を明らかにし、新しい強心薬の開発・評価を行うことを目的に研究を進めている。本実験計画は2年間を要するものではあるが、既にパッチクランプ法を用いた細胞内潅流法を確立して各種イオンチャンネル系を単離し、以下の結果を得ており、現在も研究を続行中である。 1)ホスホジエステラーゼ阻害薬であるイソブチルメチルキサンチン(IBMX)はカルシウム電流を用量依存的に増加し、なおかつ時間依存性の外向き電流も増加した。 2)新しい強心薬であるOPC-8212は、カルシウム電流を増加したが、時間依存性および時間非依存性の外向き電流は減少させた。この外向き電流の減少により活動電位持続時間は延長するので、OPC-8212の強心作用の重要な要因の一つと考えられる。OPC-8212にはホスホジエステラーゼ阻害作用も有るが、この作用はIBMXと異なることからホスホジエステラーゼ阻害作用によって引き起こされているとは考えられない。 3)心室筋細胞においてイソプロテレノールはカルシウム電流を増加し、その増加はアセチルコリンによって完全に抑制された。この結果は、accentuated asntagonismを膜電流レベルで証明したものである。 4)心房筋ではアセチルコリンはカリウムイオンの透過性を増加するが、Islet-activating protein(百日咳毒素)の前処置により、この作用が完全に消失した。この事実はアセチルコリンのムスカリン様受容体を介したカリウムイオンチャンネルに対する作用がGTP-binding proteinによって仲介されていることを示唆している。 5)現在開発中の数種の新しい強心薬についてもその作用機序を検討中である。
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