研究概要 |
目的:昨年度に、ランダム・パタンで呈示されたドットの数に合せて、アラビア数字(1〜7)を選択することを学習した1頭のチンパンジー、アイ(メス,推定年令9〜10歳)の数の概念を明確にするために、次の2実験を実施した。 実験1:大きさの違うドットの混合パタンを用いて、数のマッチング行動を統制している弁別刺激が、量的要因(とくに密度)ではなくて、数であることを検証した。訓練時のドット(直径2cm)を1.5または1cmのドット,1ヶ,2ヶ,3ヶと置換することによって、数と密度(単位面積に占めるドットの面積)の1対1の対応関係を変え、たとえば3と6でも同じ密度をもつような刺激系列がつくられた。その結果、1・2cm混在のパタンで正答率の低下が5と6に生じたが、しかし全体の成積は85%以上を維持し、ドットと数字のマッチング行動は、数を弁別刺激として行われていることが明らかになった。すなわち、アイは基数1〜7を習得した。 実験2:序数の訓練を開始する第1段階として、数系列の形成を次の方法で試みた。まず条件性刺激として漢字の"大"または"小"を呈示し、1対の数字キイ(たとえば3と4)のうち、大きい方(4)かまたは小さい方(3)を選ぶことを訓練した。1と2から始め、学習完成後3、次に4と順次大きい方の数字を1個ずつ加えた。数系列1〜7の隣接数字からつくられた6対内の、大小による条件性弁別は、いずれも5セッション以内で学習を完成した。その後訓練には用いられなかった非連続の数字対、たとえば2と4,3と5などをプローブ・テスト試行として挿入し、推移性(transitivity)が成立するかをしらべた。結果は、テスト対の大の正答率は有意に高く、1→7方向への推移律の獲得を示した。しかし小の正答率は対間に差があり、逆方向推移はみとめられない。
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