研究概要 |
動物に強いストレス性の有害刺激を与えると、後続の痛み刺激に対して一過性に鈍感になる。これはストレス誘発鎮痛と呼ばれ、内因性鎮痛物質(オピオイドペプチド)の関与が指適されている。申請者は自己刺激に関与する脳内に想定される報酬系(快情動を伝達する神経回路)に関して、従来、唱えられてきたカテコラミン仮説(カテコラミン、とくにドーパミンが報酬系に直接的に関与している説)を否定し、主役はオピオイドペプチドではないかと考えるに至り、快情動と不快情動に関する神経モデルを構築した。本研究の究極的目標はそのモデル検証であるが、その前段階としてストレス誘発鎮痛が取上げられた。近年の発生学的研究によれば、中枢神経系の形態的発達がなされる新生児期に慢性的ストレスを与えるとストレスを伝達する神経系の発達が促進されるという。研究室内で産生されたウィスター系アルビノラットを2群に分け、実験群には生後初日から離乳までの21日間、1日1時間の断続的電撃を与え、統制群には電撃を与えなかった。実験【I】:150日令のラットを熱板法により熱刺激(56℃〜58℃)に対する感受性を検討したところ、実験群のラットは統制群に較べ統計学的に有意に低かった。実験【II】モルヒネに対する感受性を両群のラットで検討したところ、実験群のラットは統制群の約2倍、感受性が高く、モルヒネの鎮痛効果が認められた。実験【III】.両群の脳内オピオイドペプチド含有量、オピオイド受容体濃度を測定したところ、両群に差は認められなかった。今年度は実験【I】,【II】の前年度結果の再確認に大くの作業が使われたが、その結果は、従来ストレス誘発鎮痛は一過性と考えられているが、本実験におけるようにストレスを与える時期を選ぶと永続性の鎮痛効果が惹起されることが明らかになった。しかし、生化学的定量結果(実験【III】)はわれわれの予測と一致するものではなかった。
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