研究計画に基き、61年8月に約100世帯を対象に聴き取り調査を行った。戦前期に学校教育を受けた高齢者の学歴とその取得に関する意識が、旧士族商家、農家によりどう異なるのかをみることを目的とした。得られた知見は以下のようである。1.旧士族は中等教育修了後に教育を受ける者が大半でその多くは師範系の教育機関であり、教員を職業とする者が多い。士族は、職業獲得の手段として教育を利用するだけではなく、士族の家柄を誇りとする意識が、厳しい躾となり、それはまた教育に価値を置く態度とないまぜになって、高学歴者を生み出している。2.商家は、高等教育修了者と中等教育修了者とが半々となっている。彼らにとって学歴は、直接、職業再生産のための手段となるわけではないが、中等教育以上への進学は当然視されており、学歴は文化的通貨の役割を果たしている。3.農家は、前2グループと比較して最も学歴が低く、高等小学校卒業が通例である。経済的困難が中等教育への進学をはばんでいたが、それだけでなく、跡取りとなる長男には学歴は不必要、農業をやるのに学歴は不必要とする傾向が根強く残っていた。農家については、2部落を対象とし、生産力の差が学歴取得に何らかの影響を及ぼしているかについてを比較したが、両者の差異はほとんどない。 これらの知見をもとに、87年3月には、約100世帯のうち20世帯を対象に、親-本人-子の世代間の関係、本人の兄弟間の関係などを含め、ライフヒストリーをきく形でのインテンシブな調査している。 60年度に収集した文献資料の分析は、61年度の教育社会学会大会で発表し、それをもとにした論文の執筆を進めている。 62年度は、文献資料とインタビュー調査との双方の知見をまとめ、それらを総合的に合体し、最終的には報告書の形でまとめることを予定している。
|