研究概要 |
二年間にわたって蒐集したSCAP/GHQ・CIE関係文書(約4万枚)を整理分類した。それらのうち、とくに昭和二十一年一月頃より文部省教科書局からCIEに提出された暫定教科書原稿(英文)のなかで CIE担当官がもっとも注意を払った日本史教科書を、師範学校,中等学校および国民学校初等科・高等科の四種類にわたってすべて翻訳を行なった。またこの英文原稿には、CIE担当官が 所定の検閲基準によって 削除,修正を命じた箇所が罰点やその他のチェック印によって示されているので、それらは極めて重要な文書となっている。またそれによって日本側文部省の図書監修官が改訂原稿を提出し 再三CIEのチェックを経ていく過程が明になったこともまた重要である。そのいくつかをみると つぎのような点が鮮明になってくるのである。昭和二十一年二月十六日にCIEに提出された、暫定師範歴史巻一英文原稿は、第一章 肇国 第一節宏遠なる肇国,第二節 神武天皇の御治績 第二章 大和時代と皇威の発展、第一節 皇威の拡大 第二節皇威の伸張というようなものであった。これは戦前の教科書と寸豪もたがはない記紀神話にもとづく皇国史観の歴史叙述であった。CIE担当官は、これにたいして、第一章を全面削除、修正を、第二章を部分削除、修正を命じたのである。文部省は、この命令によって、第一章国家の形成 第一節 地理的環境 第二節 日本人民 第三節文化と生活 第四節 国家の起源と神話、に修正したが、第四節は再び全面削除となり、その他は承認された。暫定初等科国史もこの形式によって原稿提出をしたが、「祖先の伝へ」などが神話と史実の混淆がある、として大部分削除、修正を命じられたのである。歴史教科書が 史実にもとづく科学としての歴史叙述に転換していく過程には、このような占領軍の教育改革政策があったことを 実証的に明らかにすることが本研究においてできた。
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