研究概要 |
前年度の調査に引き続き、今年度も夏に2週間の現地調査を行い、その結果を整理・分析する作業を進めている。その結果、ほぼ1950年頃を堺に、いわゆる近代化と平行して、老人の位置づけに微妙な変化が生じてきたことが明らかになった。その変化は今日なお進行中であり、ある1時点に特定できるような性質のものではないが、それ以前の「伝統的」村落における老人の位置づけと、今日のそれを比較してみると、ある明白な対比が浮び上ってくる。「伝統的」な沖縄の村落社会における老人の高い位置づけとその権威は次のように整理できるであろう。 1.現在の親世代を生み、養育したという事実に基く権威 2.人世の教育者、モデル、職業上の訓練者、現役エキスパートとしての権威 3.生産基盤である土地、農耕技術、労仂組織等を先祖から受け継ぎ次世代に伝える者としての権威 4.法的(jural)権威-伝統社会において一人前になるためにはしかるべき出自集団や家に属さなければならない。言いかえれば人の親としての老人は村落社会において「公民権」を保証する基盤である。 5.村の神事、祖先の祭祀者としての宗教的権威 6.1〜5から生ずる全体的に高い道徳的権威 このような老人像は社会変化の波の中で崩れつつある。特に職業構造の変化(非農化)により、2,3の権威は失われ、村の神事も意味を失いつつある今3の権威も縮少した。「公民権」はも早生れによるのではないし、福祉政策は、ある意味で老人たちを遊民化してしまった。ライフヒストリー、統計資料などをも用いて、老人、老いの位置づけの変化を明かにすべく作業中である。
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