研究概要 |
本研究は, 茨城県南部のいわゆる常総地域を対象として, 近世都市の形成過程を基礎構造との関連において実証的に解明することを中心課題に据え, さらに古代から戦国期にいたるその歴史的前提条件ともあわせて考察しようとしている. 近世の都市, とりわけ地方都市の形成のプロセスについての研究は, 農村の同時期の事象とくらべて著じるしく立ちおくれているが, その理由のひとつが史料的制約にある. 昭和60年度よりはじまるこの研究では, まず茨城県南部の土浦市, 石岡市, 水海道市などについて, その都市形成にかかわる関係史料の発掘・収集につとめたが, とりわけ石岡市中町矢口芳正氏所蔵文書は, 従来の関東地域の近世史研究の空白領域である元禄期以前の時期の史料を多数含んでおり, きわめて重要なものであった. 本文書には, 寛永〜正保期の府中藩の地代官をつとめた屋口平右門にかんする経営資料が含まれており, 当該期の藩財政の収支, 開発途上にあった霞ケ浦水運に依る負担米の江戸廻送とその販売代金の運用にかかわる金融機能などが明きらかになるもので, 常陸府中の近世都市の形成を具体的に明きらかに出来るものである. 矢口家文書はおおよそ三千タイトルにのぼるが, その目録を作成することが出来た. また, 土浦市についても同様に綿密な史料調査を進め, 町絵図, 町方旧記, 地誌類の収集につとめた. 石岡市にも多数の地誌, 旧記類が伝存しており, これら古文書資料を補完する関連資料によって地方都市の形成過程をよりいっそう具体的に明きらかにすることができた. ことに元禄期以前の都市形成期の研究にとっては古文書史料の伝存するものが乏しいが, この資料的制約を克服するための方法的検討を含めて本研究では都市空間の形成過程を古文書資料に限定することなく絵図, 旧記, 地誌類を総合的に検討する方法を模索してきたが, その成果の一端は本研究報告書において披露することが出来たように考えられる.
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