研究概要 |
本研究は近代ドイツ文学にみられる多様な創造的精神の形成過程を克明にたどり、その歴史的意義と限界、並びにその普遍性に現在的アクチュアリティーを向うことによって、われわれをとりまく危機的な文化状況を乘越える方途を探る目的で進められてきた。61年度においても個別的研究と平行して数度にわたる共同の研究会が持たれた。この過程を通じて、近代ドイツ精神の展開を啓蒙主義とそれに連動するカントに端を発するドイツ・イデアリスムスの思想運動において跡づける試みがなされた。この思想運動はカント的アンティノミーの創造的克服をめぐっての運動であったと特色でけることが出来るが、われわれはこのような試みを詩人の創作活動にも見てとることが出来ると考えた。そしてそこにはむしろ抽象的思考の網目から落ちた新たな思索への契機が含まれていると期待出来た。本年度が本研究の最終年度にも当り、一定の研究成果を公けにする必要もあって、徒らにテーマが拡散するのを防ぐため、以上のような共同討議を踏まえながら「認識と実践との関連」という論点に立って個別研究に専心することにした。長沼はゲーテを、藤原はヘルダーリンを、青山はノヴァーリスを主たる研究対象としてこれを行った。そして関本は今日的な批判理論をも視野におさめながら文学受容の観点から近代ドイツ精神の批判的検討を行った。この結果これらの詩的世界に当代の思想家たちの思想をある意味で先取りし、あるいはそれを越えて今日の思想家たち(例えばハイデッガー,ロムバッハ,シュミッツ,ハーバーマス等)の問題意識にも通底するものがあるのを感じさせた。現在本研究は新たなメンバーをも加えて急ピッチで進められており、有意義な成果が期待されている。この成果は現在出版計画が進められている論集に発表するつもりである。
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