研究概要 |
本研究の目的は、ラテンアメリカ現代文学の作品群を、社会情勢のテキストとして解読するのでなく、作品のなかに織り込まれた同時代の思考様式や文化的価値のパラダイムを、文学作品だけでなく、民俗文化や政治変動というドラマを分析することによって究明することであった。共通テーマとしては、独裁制を選択した。独裁者を題材とする作品の輪読は十分とはいえないが、それに関連したいくつかの問題については、各分担者ともかなり究明できたといえる。 木村は、ラテンアメリカ文学の常数である独裁者を、個別的な歴史的時間軸のなかではなく、「瞬間における歴史」という枠組のなかで、神話的・祖型的人物像として描き出そうとしたガルシア=マルケスの手法が、カリブの民衆が保持してきた極めて古い型の物語的伝統を基盤としていることを明証した。 吉森は、独裁者たちの行動様式や政治スタイルをラテンアメリカの一貫した性癖として片ずけるのでなく、歴史的環境のなかで位置ずけるため、1895-1930年のペルーの「貴族共和国」を分析し、寡頭勢力は社会の統合というより社会の分裂・非接合に依拠し、その支配を成立させていたことを例証した。 小林は、統合のシンボルではあるが、つねに体制から排除されてきた先住民と民族性の問題に接近するため、ニカラグア民族劇グェグェンセの革命前後の変化、メキシコにおける非先住民主導の先住民文化再興運動の特性を解明した。 民衆の口承文学と物語小説,寡頭支配体制とポプリスモ,民衆文化における民族・歴史意識といった解明すべき課題についても、学大研究班活動などをつうじて論究していきたい。
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