本年度は、昨年度における装置の設計・製作を継続するとともに、それらの整備調整を行ない、いくつかの具体的な試料について測定を行なう事ができるようになった。その内容は、以下のとおりである。 1.アルカリ金属黒鉛層間化合物(AGIC)について低温での光電子スペクトルを測定した。AGICは、そこにおけるアルカリ金属と黒鉛層の間での電荷の移動がその物性を大きく支配している事が知られているがその電荷移動の具体的な量について実験的にも理論的にも大きく混乱していた。この電荷移動量を決定すべく、AGIC試料表面の変質を抑えるため試料を低温に保ち、その光電子スペクトルを測定し、世界で初めて、AGICにおける電荷移動量を決定する事ができた。具体的には、アルカリ金属からの電子が、黒鉛の【π^*】バンドと層間結合バンドにほぼ等分に分配されている事がわかった。 2.黒鉛について角度分解逆光電子スペクトルの測定に成功した。上記のAGICの逆光電子スペクトル測定を目指す第一段階として、黒鉛について室温における角度分解逆光電子スペクトルを測定し、実験的に初めて高い精度で黒鉛の非占有電子帯構造を描き出す事に成功した。理論計算との比較も行ない、AGICとの関係で大きく混乱している層間結合バンドの位置が〓点においてフェルミ準位の上約3.5e【V】付近にある事を見出した。 3.高温超伝導体La-Sr-Cu-O系について低温での光電子スペクトルを測定した。この高温超伝導体は、超高真空中、室温においては、その表面が変質する事が知られている。そのため、試料を低温に保つ事によって、世界で初めて、La-Sr-Cu-O系高温超伝導体の光電子スペクトルの測定に成功した。
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